JR青梅線奥多摩駅を越え、小河内ダムを越え、青梅街道をひたすら走ることさらに1時間。山梨県丹波山村の集落から少し外れたところにあるパン屋さん「きのしたベーカリー」は、知る人ぞ知る名店である。
北海道産小麦を100%使い、無添加生地にこだわり、毎日焼き立てのパンを提供したい。木下さん夫婦から生まれたパンを求めて、県内はもとより、東京、遠くは千葉からも通い詰めるお客さんがいるほど、「きのしたベーカリー」のパンは人気なのだ。
こいたま編集部にも「きのした」さんの熱烈なファンがいて、彼は「きのしたさんのパンを食べてもらいたく、定期的に布教活動をしている」そうだ。職場の同僚や知人にパンをプレゼントすると、かなりの確率で喜ばれるらしい。どれも100〜200円前後とリーズナブルな価格なので、もらう側も遠慮しなくていいのが受けるポイント、と言っていた。
「きのした」さんと言えば塩バターロールや天然酵母くるみぶどうなど、見た目はシンプルなのに、口に含んでみると優しく、深い味わいが特徴のパンが多いような気がする。クリームパンやメロンパンも美味しい。あまりに美味しいので、買って家に帰るまでに、我慢しきれず車内で食べきってしまうという問題が発生するほどだ。
久しぶりに食べたくなったので、紅葉のドライブ取材を行っていた我々こいたま編集部は、きのしたベーカリーに立ち寄ることにした。
さて、どのパンを買おうかな〜と悩みながらお客さんの列に並んでいると、「限定 なつはぜジャム」のポスターが目に入った。
「限定 なつはぜジャム 檜原村の人里(へんぼり)で採取した『なつはぜの木(日本古来の樹木)』の実をジャムにしました。酸味が特徴です。アントシアニンはブルーベリーの約6倍。」
なつはぜ。聞いたことのない果樹だが、どこか山葡萄、ブルーベリーにも似ている。それになぜ檜原村のジャムが丹波山村で売っているのか…?
気になったので木下ご夫妻に聞いてみたところ、意外なことが判明した。
中身は、有名パーラーで商品化したジャムと同じモノを使っていた
檜原村で栽培、収穫、生産された「純檜原産」のジャム。実は檜原村でナツハゼを栽培している方が、木下さんのご親戚にあたるそう。丹波山村だと、きのしたベーカリーでしか買えないようだ。
ナツハゼはツツジ科の落葉低木で、その実は「日本のブルーベリー」と呼ばれている。と聞けば、身近にある作物のように感じるが、「ブルーベリー」のように実際に食べたことのある人は少ないのではないだろうか。
「昔は有名パーラーで、ジャムにして売っていたそうですよ。今はそのパーラーが無くなってしまい、ナツハゼの農地を引き継いだ親戚が栽培をし、ジャムにしているんです」と木下さん。
120ml入りで600円。とても美味しそうだったので、さっそく買ってみることにした。
なつはぜジャムの味は…?
瓶をあけて、香りを確かめてみる。
うむ。市販のブルーベリージャムとはまるで異なるにおい。木イチゴにも似た鋭い酸味のなかに、かすかに甘さが漂っている。原材料は「ナツハゼ」と「グラニュー糖」のみ。期待を裏切らない香りだ。
バターナイフですくうと、ナツハゼの形が微妙に残っているのがわかる。コンフィチュールとまではいかないまでも、原材料の原型が見てとれる。こしあんではなく、つぶあん、くらいかな。
表面が黄金色になるかならないかくらいに焼いたパンの上に、薄く広く塗り、まんなかにはスプーンですくったジャムを置いてみた。さて、お味のほどは…?
素朴な、優しい酸味と、自然の甘み。
いつも市販の甘いジャムに食べ慣れているせいか、甘さよりも酸味を強く感じる、フルーツを食べたときの「酸っぱい!美味しい!」というのが正直な感想だ。
言葉では伝えづらいのだが、体に負担のかからない美味しさと言えばいいのだろうか。自生するクワの実や木イチゴを食べた幼少期の記憶がよみがえる。
あの「美味しさ」と似たものを、いつでも瓶から取り出して食せること。いつのまにか大人になってしまった自分にとっては、このジャムが味覚以外の感情、とりわけノスタルジックな過去を引き出してくれる道具として機能しているように思えた。
食べて昔を思い出す、ナツハゼのジャム。
ナツハゼ、懐はぜ、懐は是。なんちゃって。
「きのしたベーカリー」の詳しい情報はこちら
- 住所:山梨県北都留郡丹波山村207
- 電話:0428-88-0620
- アクセス:道の駅たばやま(のめこい湯)から車で5分ほど
- 営業時間:10:00〜17:30
- 定休日:月・火
- 駐車場:あり(原っぱのような空き地に数台停められるようです)
遠方から向かわれる方は、念の為、出発前に営業のご確認をオススメします。木下ベーカリーさんのTwitterをチェックしてみてください!